「高齢者」のアイデンティティ探しを考える

前の章でお話したように、河合先生は、「退職者がどのようなアイデンティティをもっていくのかがこれからの時代に必要だ」と課題を提示されました。これを欧米社会の父権社会と同様に老人がそれまでの経験を元に威厳をもって、自らの存在を確立していくのだなどと短絡的に判断しては大変なことになります。
文部科学省が「生涯学習」というテーマで語る「自らの経験を活かして、地域コミュニティでの生きがいづくりをしましょう」などと簡単に結びつけるととんでもないことになります。それまでの会社コミュニティでの自分がその中にはまり込んで、きた経験をいきなり、老人はこう生きるべきだなどと地域コミュニティで叫んだりするととんでもないことになります。

既に女性が参加している地域コミュニティの成り立ちをしっかり見据えて、母系社会である日本人ならではの高齢者のコミュニティ・アイデンティティづくりを考えることが重要になってきます。

しかも地域社会自体のもつ地域コミュニティの課題である「世代間交流」を視野に、若い世代が自ら高齢者になったときに目指したくなるようなファンタジーとして創出していくことが重要です。

高齢者が創出すべき地域コミュニティとは?

この講座では、そうした視点から、「母親の庇護から、夢と好奇心をもって世界、仕事へと飛び出していった若者が年老いて、迎いれられるような地域コミュニティ」を今の高齢者である私たちが創ることがその答えではないかと考えました。以下、その課題を考えていきます。

1)地域コミュニティに求められる知恵を学ぶ方法を考える

会社で利益追求、会社の成長を目標に課題を提示され、ストレスの中、その追及に時間のほとんどを費やしてきた人にとって、
「地域コミュニティづくり=より良い地域の創出を可能にするコミュニティづくり」
とはどんなものになるのでしょう?

会社などの仕事で培ってきた知恵は、全く役に立たなくなるのでしょうか?
農業社会だった嘗ては、老人の知恵は、そのまま農業における尊敬される知恵となり、家族に受けつがれましたが、今の老人の知恵は、企業というコミュニティがなくなった今、どうなるのでしょう?

単に現在の生涯学習では、良く聞くことですが、
「自らの経験を活かして」と言われ、「それまで従事してきた自らの会社での仕事の素晴らしさを伝えるのだ、自慢をするのだ」と勘違いされたら大変です。
または、嘗ての父権回復などととち狂って、戦前の強い父権をなどというかん違いをされたら、もっと大変です。(母系社会を基盤と下日本文化における父権の弱さは、まだ理解されていないのです。)

ひたすら稼いで、子どもになんでも買い与えてお金で解決してきたような、いままでの戦後経済成長期の経済強国づくり神話づくりのやり方を続けるなら、それは、結果として、現状の

子どもの助けになるように孫の面倒を見、お小遣いを上げるということになり、最終的には、死んで財産を残すという役割が高齢者の最終ゴールになるだけです。

そのために子供夫婦の近くに居住し、その独立性はさまたげない範囲で求められる援助をする高齢者ということになります。これが、現在の高齢者のアイデンティティとなっているのが現状です。

その延長線上に作られるのが、現在の学校制度で立ち上がってきた「放課後子ども教室」や「コミュニティスクール」などでの第三の大人として高齢者の利用という仕組みです。

時間が余っているのだから、お手伝いできるでしょう。という訳です。それでも余裕のない方は、再度会社のときのように働いてみてはいかがでしょうというのが現政権の考え方です。

子供夫婦もそうした形で地域活動に参加する高齢者を目指すのが将来の自分たちが達成する「高齢者のファンタジー」なのだと考えるのでしょうか?

実際は、子ども夫婦も考えたことのない、高齢者のアイデンティティなのです。自分の親の現実を見て、初めて考え始めるのです。それで地域コミュニティづくりができると考えているのでしょうか?
違います。地域コミュニティしかないので、考えざるを得ないが、実際のところは良く解らないという現実に直面します。結果、わからない高齢者同士で、わかったような気になる相互理解型コミュニティをつくり、その蛸壺コミュニティに潜り込むことになります。その中なら、過去の自慢も自由自在です。お互いに自慢したいことを言い合うことを認め合ったお仲間コミュニティですから。そこが最後の居心地の良い場所になります。

私は、それが退職後の大人の目指す「アイデンティティ=ファンタジー」とは思えません。

この章では、河合先生が、「中空構造日本の深層」提示された「日本独自の中空構造となるコミュニティ」をヒントにどうしたら、高齢者にとっての地域コミュニティがそれ以外の世代との橋渡しとなる構造を獲得できるのかを皆で一緒に考えていきたいと考えています。そのためには、まず高齢者が自ら積み重ねてきた事実をそのまま、次の世代へと語る行為がなにより必要なのです。
まだ、私たちは、その地域文化を継承していくという役目を十分に担っていないのです。証拠に戦争体験を経て、先人である司馬先生や河合先生たちの積み重ねてきたものへの回答を出していたいのですから。


<この項、続く>
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