トップ  >  酒雑学、備忘録  >  季節の酒・年中行事と酒  >  6月・水無月 その2:初呑み切り(佐々木久子、「酒 はる なつ あき ふゆ」より)
<佐々木久子著「酒 はる なつ あき ふゆ」より、転載>

(前略)
さて、田植えが行われている頃、各地の酒蔵では新酒の“初呑み切り”がはじまる。
初呑み切りとは、貯蔵タンクの吞み口をはじめて切るという意味で、いわば新酒の利き酒なのである。
お酒は、仕込んだ桶(タンク)により、その成分や熟成度の度合がずい分とちがう。それを克明に調べておいて、ビン詰にして出荷するとkの資料にする。×号と○号とを、どうブレンドすればいいか…ということは、この初呑み切りのときの資料でやるのである。
かつては、この初呑み切りという行事は酒屋にとって重要な行事であり、顧客や問屋筋の人たちを招待して祝宴をはり、売買の契約なども行った。
初呑み切りは、明日の無い酒づくりをやってきた杜氏や蔵人にとっては、晴れの勝負の日でもある。とくに、灘や伏見の大手メーカーの酒屋では、さながら各蔵とのコンクールのような観をみせ、まさに杜氏としての真価、技量が問われるという日である。
(以下、略)

<転載、以上>

佐々木久子さんは、この文章の後に続けて、「利き酒」というものを仕方を、さらに酒好きと利き酒の上手下手の関係についての説明をされています。

【現在の初呑み切りは?】

上記は、昭和三十年代から、酒の友社から出版された雑誌「酒」の編集長だった佐々木久子氏が昭和57頃に文庫で出版した同書からの引用ですが、この当時の「初呑み切り」は、6月の田植えの時期だったようです。

ただ、現在では、タンク貯蔵だけでなく、ビン貯蔵をする品も多く、どの段階を初呑み切りとするかはいろいろ議論のあるところかもしれません。
当時、杜氏は、出稼ぎが普通で、酒蔵で仕込みを終え、田植えの頃、一時戻って、酒の出来具合をチェックしたというほとんどの蔵の事情が見えてきます。

その後、醸造鑑定官が7月頃に(夏前の時期)各蔵をまわって、各タンクの呑み切りを行い、出荷の指導をするというのが一般的になったようです。
そのためか、各蔵でも、今では7月の下旬ごろ(蔵元によって、まちまちで、少量多品種の昨今は、品種ごとに異なるのかもしれませんが、概ね6月から9月上旬までということになるのでしょうか…)が初呑み切りとされることが多いようです。

もちろん、6月に秋に出荷する酒の出来の良しあしを判断する催しとして、販売店の方々を招いて、初呑み切りの会などを行い、予約販売するという習慣は、今でもも見られるようです。
確か、名門酒会さんでもこうした行事を今でも行っているように記憶しています。

【今の初呑み切りの例】

◆名門酒会さんの初呑み切り「ささのはさらさら」についての最新情報は、こちらからご覧いただけます。

◆季節限定酒として、「初呑み切り 生詰」などの商品をこの6月から提供している蔵もあるようです。金沢の福光屋さんも「加賀鳶」という限定酒を6月に販売されているようです。詳細は、こちらから。

◆香川の綾菊酒造の呑み切り神事のニュースが7月9日に四国新聞に掲載されました。<以下に転載します。>

「深みある味に満足」/綾菊酒造で呑み切り神事
2014/07/09 09:39


「呑(の)み切り神事」が8日、香川県綾川町山田下の綾菊酒造(岸本健治社長)であり、関係者は色や香り、のどごしなどを確かめながら「おいしい」などと評価、秋に出荷時期を迎える新酒の出来に期待を寄せた。

呑み切り神事は1790年の創業以来続く伝統行事で、県産米・オオセトと綾川の伏流水で仕込んだ日本酒「国重」の神事は21回目となる。かつては酒の仕込みに杉おけを用い、おけに取り付けた栓を「呑み」と呼んでいたことから、神事をこう呼ぶようになったという。

神事には同社役員や酒販売業者ら約40人が出席。杜氏が国重のタンクを封切ると、酒蔵全体に甘い香りが漂い、口にした出席者は深みのある味に満足そうな表情を浮かべた。

旧経営陣からの事業譲渡に伴い、今年5月に就任した岸本社長は「新体制になっても地元米と綾川の水にこだわった酒づくりをしたい」とあいさつ。現代の名工に選ばれている杜氏の国重弘明さんは「飲み飽きない、切れのあるいい酒に仕上がっている」と話した。

新酒の出荷は9月ごろに始まり、1.8リットル瓶で約1万本を予定している。

<転載、以上>

【貯蔵タンクごとの酒をブレンドすることについて】

冬からその年醸造した吟醸酒など少量多品種の銘柄をビン熟成をさせることが多い昨今でも、普通酒は、大量(多くの大型タンク)に仕込まれ、その出来はタンクごとにまちまちなのが普通です。それを一定の蔵の基準となる味として、平均化して、出荷するには、昔からタンクのブレンド(バッティング)は必要不可欠な作業でした。

私も20年以上前になりますが、夏に醸造鑑定官の方が廻られた後に、よく各地の蔵元を訪ね、呑み切りの情報を聞きたことを想いだします。
それぞれのタンクの味見などをさせていただき、この「タンクはまだ早い」「このタンクは思ったより進んでいるから、秋口には、こちらとバッティングして出荷する」などというお話を伺いました。当時の夏の酒蔵巡りを懐かしく想いだします。杜氏はおられず、酒蔵の社長さんにお話を伺うことがほとんどでした。

<この項、続く>
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